コーチングとは、答えを与える代わりに、答えを作り出すサポートを行うためのコミュニケーション技術です。 その人の本当の目的や理想を明確にし、それを実現するための方法を探索したり、行動する勇気を与えることです。 コーチングでは早く出来る限り高いところまで到達できるようにサポートすることを行います。
コーチングの基本モデル
- 質問ではなく探求する
- あなたのことをより知りたいという気持ちを持つこと(相手に関心を向ける)
- 質問を通して、自分の課題に自分で取り組み解決できる(相手には考える力・行動する力がある)
- 質問を通して、自分らしい人生を自分で思い描き実現できる(相手は唯一無二で価値ある存在)
- 仮説と勇気を生み出す
- 仮説とは、まだ検証されていないことに対して答えを見つけようとする試み
- 目的が何でゴールはどんな状態で、そのための効果的なアクションは何か
- 勇気とは、クライアントのエネルギーであり、やりたい・やれそうという実感(自己効力感)
- 仮説とは、まだ検証されていないことに対して答えを見つけようとする試み
1. テーマ決め
- 今日話すことの内容を決める
- 「今日テーマとしてお話ししたいことは何ですか?」
- 「〇〇を選んだ理由は何かありますか?」
- クライアントの言葉をリフレインしながら深めていく
- セットアップ(コーチングをするための準備)
2. ゴール決め
- (前提条件)テーマを設定した背景が明確であること
- (前提条件)新しい行動を取れる心の状態になっていること
- GROWモデルを使ってゴールを設定する
-
Goal (ゴール):
- 具体的に目指すべき目標とその目的を明確にする
- 「あなたが達成したい目標は何ですか?」
- 「何のためにこの目標を達成したいのですか?」
- 「目標を達成することで何を手に入れられると思いますか?」
- 「具体的にどんな状態を目指したいですか?」(Specific; 具体的)
- 「N週間・Nカ月・N年後までに、どんなゴールを達成したいですか?」(Timed; 期限付き)
- 「それは何をすれば/何があれば実現できると思いますか?」(Achievable; 達成可能性)
- 「達成したい数値はありますか?」(Measurable; 数値化)
- 「この目標に取り組むのは何のためですか?」(Relevant; 目的との関連性)
-
Goal (ゴール):
- 自分軸を明確にする
- 他人軸から作られた目標は偽物の目標になる。他人から評価されたい等。叶っても幸せになれない
- 自分軸から作られた目標は自分が本当に望んでいる目標になる。叶うと幸せになれる。
- 目的は自分自身が幸せになること(常に同じ)。そして幸せとは他者貢献である
- クライアントのありたい姿は何か。その目的は何かを意識する
- 目標が作れないときは自己理解を深めてもらう
- 過去の経験や現在の理想から価値観を発見し、自分軸を明確化させる。
- 価値観を引き出すには、具体的な経験・思い・感情を聞いてみる
- 今までの行動から背景にある目的(隠された目的)を探索する(アドラー心理学の目的論)
- 人生における重要な目的は:
- 自己実現:変えられないものを受け入れ、変えられるものを変えていく勇気を持つこと(アドラー心理学の自己受容)
- 社会貢献:誰かの役に立つこと(アドラー心理学の貢献感・所属感、またはそれらの総称である共同体感覚)
- 納得感の得られる答えは自分自身の中にしかない
- クライアントが答えを出せない場合のみ、コーチ側からアイデア出しや提案をする
- ただし、必ずクライアントの発言の後に質問を使って行う
- 「〇〇などはどう思いますか?」
- 「〇〇をしたらどうなりそうですか?」
3. 意思決定
- (前提条件)ゴールが明確になっていること
- (前提条件)クライアントの価値観・自分軸が明確であること
- GROWモデルを使ってゴールを達成するための意思決定を行う(pp. 63-66)
-
Reality (現状):
- 現状とゴールの差を確認する
- 「ゴール達成に向けて、これまでに取り組んでことは何ですか?」
- 「取り組んだ結果、どんな変化や進展がありましたか?」
- 「ゴールと現状の間にはどんなギャップがありますか?」
- 「ギャップができている原因は何だと思いますか?」
- 「目標を達成するために変えなくてはいけない習慣はありますか?」
- 「目標の達成を妨げているものはありますか?」
- 目標を達成した未来を追求することで、現状とのギャップが明確になる
-
Options (選択肢):
- ゴールに近づくための行動を増やす。考えの幅を広げる。視点を変える質問をする
- 「ゴールを達成するためにどんなやり方がありますか?」
- 「他の人ならどうしていると思いますか?」
- 「それぞれのメリットは何がありますか?」
- 「その選択をした理由は何かありますか?」
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Will (意思決定):
- 行動を起こすことを決断してもらう。
- 「具体的にはどれから始めますか?」
- 「今日から始められる行動・辞められる行動は何かありますか?」
- 「その行動をいつどこで誰に対して実行しますか?」
- 「その行動をさらに効果的にするために工夫できることはありますか?」
-
Reality (現状):
- リクエスト
- クライアントにぜひ試してもらいたいことがあれば理由と共に伝える
- 「〜を目指してもらいたいです。なぜなら〜」
- 「〜をしてみてもらいたいです。なぜなら〜」
4. 勇気づけ
- (前提条件)何のためにどのような行動をするかが明確だが、挑戦への一歩が踏み出せない
- 勇気づけを行う
- 課題に取り組む責任があるのはクライアント自身
- 行動を起こしづらそうな時は、最初の行動をもっと簡単な小さなものにする
- アドラー心理学における勇気づけを行う
- 褒めることは、条件付きで行われ、結果が重視され、評価的な態度で、上下関係で行われ、褒める側の価値観が適用される。推奨されない行為。
- 勇気づけは、無条件で行われ、プロセスが重視され、共感的な態度で、横の関係で行われ、勇気づけられる側の興味関心に焦点を当てて、相手を認める。
- 前に進ませるには、どうなりたい・どうありたいという意識を強く持たせる
- 自己実現
- 現代社会において、周囲の価値観に重きを置くと自分が望んでいたことが何かわからなくなり、自分の力を発揮できなくなる
- 自己実現傾向を取り戻すには、無条件で受容し、正確に理解し共感しようとしてくれる自己一致した他者(コーチ)との出会いが必要(ロジャーズの実現傾向)
コミュニケーション
コーチングのコミュニケーションでは以下の視点が大切になります。
1. 報告と探索
- 報告
- 質問されて即答できること(既に気づいていること)
- 探索
- 質問されて黙ってしまうこと(気づいていないこと)
- 沈黙は探索の一部のため、コーチ自ら何かを話し始めたり、新しい質問をしようとする必要はない
2. 傾聴
- 具体化
- 「例えば?」「具体的には?」
- 抽象的な話から具体的な話を引き出す
- 網羅
- 「他には?」
- 他の選択肢や考えに気づかせる
- 目的
- 「どうして?」「何のため?」(Why)
- 「何がそうさせているんだろう?」「何があったのかな?」(What)
- 感情・意思・評価判断について発言したときに、相手の目的を確認する
- Whyを多用しすぎる時は、Whatに言い換える
- 例:「どうして時間が取れないのか?」→「何が障害で時間が取れないと感じる?」
- 反芻
- 「言ってみてどう?」
- 振り返ることで、考えの整理と自分を十分に表現できたか確認する
- 抽象化
- 「つまり?」「まとめると?」
- 話が長くなってきたり、まとまりがなくなってきたときに概要を確認する
- 肯定形
- 「〇〇でなく何をする?」
- 否定的な内容から肯定的な内容を気づかせる
- 例:もうスマホは見ません → スマホを見ない代わりに何をする?
- 例:時間がないからできない → 限られた時間でできることは何があるか?
3. 問いかけ
- 質問しづらいことは断りを入れる
- 「こう聞くと嫌な気持ちになるかもしれないけど聞いてもいいですか?」
- 質問しづらいことは独り言のように問いを投げる
- 「それって何でしょうねー」
- 「それって何で起きたのかなー」
- 別の視点を与える問いかけを行う
- 「これまでどのように対応してこられたのですか?」(過去の視点)
- 「若い頃の自分ならどんな気持ちになりますか?」(若い時の視点)
- 「もし上司の立場だったらどんな風に感じますか?」(他者の視点)
4. フィードバック
- 断りを入れてから、これまでの話を聞いた中で自分が感じたことをクライアントに伝える
参考文献
- 宮越 大樹『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』2021, ぱる出版
- アドラー心理学の考え方を前提としてコーチングの方法について書かれている本です。アドラー心理学とコーチングの両方に興味がある方におすすめです。
- 著者がYouTubeでアドラー心理学に基づいたコーチングについて説明している動画「アドラーの思想とコーチング」もあります。参考までに