高専は5年間ですが、専攻科にいくとさらに2年間学校にいるので、合計で7年間になります。 電子情報科から電気情報システム専攻科に入って卒業した者として、専攻科はどんなところなのかや、専攻科にいくメリット・デメリットなどについて書いていきます。
専攻科
本科よりも高度で幅広い知識を勉強する教育過程で (長野高専では)「生産環境システム専攻」と「電気情報システム専攻」の2つの専攻があります。 電子情報科の人が専攻科に行く場合は、自動的に電気情報システム専攻に入ることになります。
専攻科入学前は、情報科の人として「電気系の勉強を今更するのはちょっと不安だな〜」という気持ちでしたが、選択科目の取り方次第では1つも電気系の科目を取らなくても修了できます。その代わり、数学と物理系の科目をとる必要が出てくるかもしれません。もちろん、一般科目の選択で2科目以上のところを4科目とる方法もあります (スケジュール的に大変ですが)。授業科目の詳細は電気情報システム専攻 - 高専Webシラバスを見てください。 長野高専に限った話になりますが、情報科出身なら選択は、知識工学、信号処理論、マイコン応用、情報セキュリティ論、画像処理応用、ソフトウェア設計論、符号理論あたりの情報系科目を取ると良いでしょう。 専攻科1年のときは、一般科目が多くて、選択も電気系科目に偏っている部分があるので、少し大変で心配な部分もあったりしますが、専攻科2年になれば自分の専門科目が増えて一安心といった感じになります。
長期インターンシップ
専攻科1年の後期には、14週間にわたる学外実習(長期インターンシップ)が必修科目としてあります。正直なところ14週間もインターンを受け入れてくれる会社は少ないです。なので、学校側がこれまでの実施状況からいくつか会社の候補を挙げて、学生はその中から選ぶという形に落ち着くと思います。もちろん、自分でいきたいところを調べてそこに行くという人もいます。その辺は学校側 (長期インターン担当教員) も柔軟に対応してくれます。長期インターンシップでは、海外インターンもあるので、英語に自信のある人は海外に行くのもありです (海外の大学で授業に出席したり研究室でプロジェクトに参加した人や、海外の会社で仕事をしていた人がいました)。 インターンが終わると校内でインターン報告会が実施されるので、みんながどこへ行って何をしたか話を聞くことができます。 国内、海外、どこにいくにせよ、長期インターンはとても有意義な時間になると思いますし、就活でもこのときの経験は大きく活きると思います。
私は国内勢で、実習先に「Linux使う人間で Python, JavaScirpt, Bash が書けて、セキュリティに興味があります」という話をしたら、サイバーレンジやることになりました。実習内容を私に合わせてくれたり、スーツ着なくてもいい点とかがよかったです。あと、インターン先でお世話になったメンターの口癖がうつりました。
就活
長期インターンシップが終わるのが、専攻科1年の1月ごろです。そして3月になったら、専攻科の半数以上は就職活動を開始します (大学にいく人は大学院入試になります)。人によっては、インターンに行ったところに就職することがすでに決まっていたりしますが、5月か6月くらいまでに就職先は大体決まります (決まっていない人もいるので配慮は必要ですが)。高専で勉強した専門分野を活かせる場所であれば求人も多いので、就職は苦労はしないと思います (2,3社やれば十分かと思います)。都会で就職するのか、はたまた地元で就職するのか、自分のやりたいことは何なのか、自分のスキルセットは何か、今までやってきたことは会社にどう貢献できるのか、などを自問自答しながら就活していました。専攻科2年生は特別研究の時間が増える分、授業科目数が少なくなるので、上手く空いている時間を使いながら会社に面接しにいくという感じです。
私は結局、長期インターンの実習先の会社に就職することになりました。 個人的な反省点は、資格の勉強を早くしていればよかったと思っています。専攻科1年の3月くらいに企業に送る書類に資格のことを書けることを目指して、そこから逆算して資格とる必要があるからです。 就活は時間的にも体力的にも消耗するので、面接のときに技術の話が楽しくできればいいよね、くらいの感覚でやっていました。どんな言語を書けますかとか、どんなシステムを作ったことがありますが、と聞かれた時とかは内心しめしめと思っていました (この手の話だけは結構喋れるので)。 15〜30分の短い時間で技術が好きな人間ということが伝わればいいな、という感じで話す内容は技術系に絞ってました。
特別研究
本科では卒業研究をやりますが、専攻科では特別研究をします。名前が変わっただけですが、研究する時間は平日の授業以外の空いている時間に好きなように組むことができます(もちろん指導教員と要相談ですが)。専攻科1年のときは長期インターンがあって、集中して取り組むことができないときもありますが、専攻科2年になればその心配はなくなります。さらに、本科のときと同じ研究テーマにしていれば、研究期間が長い分、学外での研究発表に積極的に参加することができるようになります。
専攻科は大学院修士課程と同等の教育課程と言っていますが、資格的には学士(工学)の学位なので、特別研究の成果によって学位授与機構の審査で拒否されることについては、あまり心配する必要はないと思います。学位授与機構には「研究の計画書」を2年生の中間くらいに、「成果の要旨」を2年の最後に提出するのですが、結果よりも背景(特に先行研究や、それらと自分の研究との関係)について色々指摘されました。
校内では特別研究中間発表(1年生)と、ポスター発表(2年生)、特別研究発表会(2年生)があるので、自分の研究についてプレゼンする機会は結構あると思います。 私は、学外で行われている研究会でライトニングトークしたり、ポスター発表したりしました。時間的・体力的に余裕があればもっと積極的にいろんなところに行けたかもしれません。自分の研究が実際に運用された訳でもないのに本当に社会の役に立つのか、みたいな気持ちもあります。でも「成果を残した」よりは「勉強して詳しくなれた」という達成感はあります。 野心的なテーマを提案した私に対して、失敗したときのことも考えて手ごろなテーマを用意したり、自分一人では思いつかなかった部分をお話しする中で提案してくださるなど、(放任主義的な面もありましたが) 安心して研究できる環境を用意してくれた指導教員には、とても感謝しています。
特別研究論文を書き終え、2月の前半に学位授与機構に必要な全ての書類1を Web 上で提出し、問題がなければ、3月の前半の時点で学位記が学位授与機構から学校に送られてきます。学位記を受け取ったら無事修了です!
メリット・デメリット
ここまでが専攻科の大まかな流れと感想ですが、専攻科に行こうか迷っている人のために、専攻科のメリットとデメリットについて言及しておこうと思います。
専攻科のメリット
- 入りやすい : 推薦で入る場合は面接だけです (推薦で行くには成績がクラス上位50%)。研究テーマや、自分のキャリアプラン、自分の勉強したいことなどについて、先生とお話しするだけです。
- 学士(工学) : 修了すると学士の学位が授与されます。
- 学費が安い : 本科と同じく授業料は年間約23万5000円です。
- 環境が変わらない : 知っている同級生・先生なので、人間関係で苦労することは少ないです。
- 研究の継続 : 同じテーマで研究が続けられます(ただし特別研究の個表のテーマ名に限定されます)。
- 長期インターン : 行く前は不安ですが、実際に行くと勉強になるし、就活とかにも役立ちます。
- 時間の組み方 : 選択科目の取り方や研究時間の組み方次第では、1コマ目の授業をなくしたり、特定の日の授業をなくすことができます。
- イベント参加 : 高専生が参加できるイベントには、専攻科生も参加できる場合が多いです(高専が絡んでいるセキュリティ関係のイベントしか参加したことがありませんが)。
- 成績順はない : 本科のようなクラス内での成績順は専攻科には存在しません。成績は就職時にGPAの計算に使う程度なので「優」を取れば十分です。
- 集会には出席しない : 始業式や終業式、学生会主催の総会などに出席する必要はありません。
- まだ働きたくない : これが一番じゃないの?
専攻科のデメリット
- 環境が変わらない : 専攻科では何もしないと新たな人脈や環境に出会うことはないので、積極的に外の世界に出る必要があります。
- 放任主義 : 指導教員や専攻科長が積極的に干渉することはないです。推薦時の書類は手伝ってくれますが、学生を放っておいても勝手に内定が決まるだろう感はあります。
- マイノリティ : 高専を知っている人でも専攻科を知る人は少ないです。説明するのがとても面倒なので「あっ、つまり高専7年生です」みたいな説明になってしまいます。また、高専すら知らない企業からは、本科も専攻科も同じに見えるため、少なからず就職に影響します (実体験としてWebの入力フォームで専攻科が選択できず学歴が正しく伝わらないなど)。求人票に「専攻科 XX万円」みたいに書かれてあれば大丈夫。でも、学歴よりも技術力の方が大切だと考えるところに行きたいね。
- 研究の変更 : 5年の卒業研究で指導教員の専門分野外で自由にテーマを決めていた人は、研究テーマを指導教員の特別研究の個表に合わせて計画書を作らないといけません。計画書提出後に研究の変更がある場合は、変更した理由について別途書類を作成し学位授与機構に提出しないといけません。
- 研究スペース : 研究室に来る5年生と仲良く部屋を使いましょう。
- 他学科の内容理解 : 学位授与の条件として「各工学分野の概要を理解して課題で取り組まれている内容をまとめることができる」があるので、興味がなくても自分の学科以外の内容も多少は聞く必要があります。
- 寮から出される : 専攻科生は寮から通えません。通生はそのまま自宅から通えます。
- とがった人が減る : 周りにいた「とがった人」や「意識高い人」の多くは、編入試験を受けて大学に行ってしまいます。継続的な勉強のためのモチベーションを維持するには、積極的に外の世界に出る必要があると思います。でなければ「無駄に歳食ってる高専卒」と言われます。
専攻科は2年間しかなくあっという間ですが、それは大学編入しても同じだと思います。 大学編入と専攻科のそれぞれにメリット・デメリットがあると思います。 色々書きましたが、高専の本科が楽しかったら、専攻科も楽しいと思います。