アドラー心理学は、人間知 (人間の本質を知ること) を探求した心理学です。
アドラー心理学における幸せ
- 幸せは、貢献感 (貢献したという主観的な感覚) を持つときに生まれる。
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貢献感は、感謝や尊敬されたときに得られる。感謝されるためには、まず相手に与える必要がある。尊敬されるためには、まず相手を尊敬する必要がある。
- 自己受容は、変えられないものを受け入れ、変えられるものを変えていく勇気を持つこと。
- 他者信頼は、他者に無条件の信頼を置くこと (条件付きで信じる場合は信用と呼ぶ)。
- 他者貢献は、自己犠牲ではなく、他者に対して何らかの働きかけをして貢献すること。
- 評価されたり認められたりすると一時的な快楽が得られるが、その幸せは不自由であり、他人の人生を生きていくことになる。一時的な快楽では、不自由な幸せしか掴むことができない。
- 最終目標は、私たちが幸せになること。
- 私たちとは、共同体のこと。
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共同体感覚は、他者を仲間だと見なし、そこに自分の居場所があると感じられること。共同体の中での所属感・共感・信頼感・貢献感を総称したもの。
- 自分が好き、他人が信頼できる、他人に貢献できる、これら3つを感じられること
アドラー心理学における自立
- 自立は、自己中心性から脱却すること。
- 自己中心性は、自分の弱さや不幸をアピールすることで周囲を支配する考え方のこと。
- 子供時代は、親に愛されないと生きていけないため、生存戦略として周囲から「愛されるためのライフスタイル」を選択してしまう。
- 自己中心的な人は、ありのままの自分を受容できず、絶え間ない不安にさらされているからこそ、自分にしか関心がない。
- 人生の主語を「私」から「あなた」や「私たち」へと切り替え、他者を尊敬すること・愛することによってのみ、自立することができる。
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ライフスタイルは、思考や感情や行動のパターン、自分や世界に対する見方、人生のあり方のこと。
- 人が変われないのは、今のライフスタイルの方が楽だと思い、それを維持したい目的のために、自らに対して変わらないという決心を下しているため。
アドラー心理学における教育
- 教育は、「自立」を促すために行うカウンセリングのこと。他者の課題への介入を行わずに、自立に向けた援助を行う。
- 課題の分離は、その課題が解決しないと困るのは誰かという視点で、自分の課題と他人の課題を分離すること。他者の課題へ介入することは、本人が挑戦する機会を奪ってしまう。
- 共同の課題は、相手の課題によって自分が迷惑を被っている場合、両者の同意を経て、お互いが協力して解決することになった課題のこと。前提として、自分と相手の間に信頼関係が築かれている必要がある。
- 否定すべき教育行為:
- 叱ってはいけない : お互いの尊敬を壊す行為のため。怒ることはコミュニケーションするためのコストが低い暴力的な手段である。
- 褒めてはいけない : 共同体の中に競争原理を生み、他者は敵だというライフスタイルを植え付けてしまうため。
- 賞罰を与えてはいけない : 自立を妨げてしまうため。賞罰は相手を支配下に置く行為である。
- 競争原理は、条件を満たさないと生きていけないという原理。
- 協力原理は、人は協力しなければ生きていけないという原理。人間は個人では弱いので、共同体を作り協力関係の中で生きている。
- 尊敬は、ありのままにその人を見るであり、その人がその人であることに価値を置くこと。尊敬によって、子どもたちはくじかれた勇気を取り戻し、自立の階段を登ることができる。
- 問題行為は、基本的な欲求である「所属欲求」を満たすための誤った表現方法である。
- 賞賛の要求・注意喚起 : 褒められるために行動をする。注目を引くために問題行動をする。注目・関心を引いているときのみ自分の居場所があると感じる。教育者は可能であれば、子供の不適切な行動を無視して適切な行動に注目すること。
- 権力闘争 : 大人と権力・支配権をめぐって争い、勝利したときにのみ自分の居場所があると感じる。教育者は挑発されても応じず、子供に協力を求めて周囲のためになるよう力を発揮してもらうように関わること。
- 復讐 : 深く傷つき、愛されていないと感じているときで、他者を傷つけたときのみ自分の居場所があると感じる。教育者は罪や報復を避け、子供が愛されていると実感できるように信頼関係を築く方法を考えること。専門家などの第三者に助けを求める必要もある。
- 無気力の誇示 : 自分は何もできないと思い、自分に期待しても無駄だと他人に思わせたときのみ自分の居場所があると感じる。教育者はそのような消極的な態度を非難せず、少しでも適切な行動が見られたら勇気づけをすること。本人の長所、強みに注目し、大人が決して諦めないこと。
アドラー心理学における勇気づけ
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勇気づけは人に勇気を与えること。なお「勇気づけ」と「褒めること」は違う。
- 褒めることは、条件付きで行われ、結果が重視され、評価的な態度で、上下関係で行われ、褒める側の価値観が適用される。推奨されない行為。
- 勇気づけは、無条件で行われ、プロセスが重視され、共感的な態度で、横の関係で行われ、勇気づけられる側の興味関心に焦点を当てて相手を認める。
- 勇気づけは、態度から始まる。子供がしてくれた行為に対して「ありがとう」と伝えること、当たり前だけどできていることに注目すること、一緒に喜んだり悲しんだりすること、時にはそっと見守ることが勇気づけになる。本人の気持ちを無視し、否定的な態度を取ることは、子供の勇気をくじくので控える。
- クラス会議は、子供同士が勇気付けし、協力して問題解決を目指すもの。
アドラー心理学における人生のタスク
- 目指すべき目標:
- 行動面の目標は、自立 (自己中心性からの脱却) と、社会との調和 (協力原理)。
- 心理面の目標は、私には能力があるという意識 (勇気づけ) と、他者は私の仲間であるという意識 (共同体感覚)。
- 人生のタスクは、社会で生きていくときに避けることができない対人関係のこと。人生のタスクと向き合うことで、上記の目標を達成することができる。
- 人生のタスクは、3つの対人関係の領域に分けられる:
- 仕事のタスクは、自己完結的な作業が多いため、仕事の対人関係は最もハードルが低い。
- 交友のタスクは、他者の関心事に関心を向けること。交友の関係を通じて人間知 (自己理解と他者理解) を学ぶことができる。
- 愛のタスクは、一緒にいると自由に振る舞えると思えること。劣等感を抱くことも優越性を誇示することもない自然な関係。
- 人生の嘘は、さまざまな口実 (上司への不満、ワーカホリック、運命の人の存在など) を設けて人生のタスクを回避すること。
アドラー心理学における対人関係
- 所属感は、人間の抱える最も根源的な欲求。人間は「所属感」を得ようとして問題行動も含む様々な行動をする。
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劣等感は、自分の特性や能力について、他者や自己理想と比較して現在の自分が劣っていると主観的に感じること。
- 健全な劣等感は、劣等感を補償するために努力をして、自己成長をもたらす。
- 過剰な劣等感は、劣等感を補償するための努力を継続するのが困難で、次第にやるべき課題に取り組まない状態になる。
- 劣等コンプレックスは、劣等感を言い訳に、課題に取り組まない心理状態のこと。
- 優越コンプレックスは、過剰な劣等感を隠すために、自分が優れているかのように振る舞い、優越感に浸る心理状態のこと。
- 勇気は、人が劣等感を補償するために必要なもの。
- 人のあらゆる問題は、結局のところ対人関係の問題である。
- 人を理解するときは、個人の認知に加えて、その人が生きている環境や対人関係などの社会的文脈も重要になる。
- 人の行動を理解するときは、目的論に加えて、誰に向けられた行動なのかや対人関係などの社会的文脈も重要になる。
その他
- 決定論は、現在の私は過去の出来事によって決定されるという理論。フロイト的な考え。
- 目的論は、現在の私は目的によって決定されるという理論。アドラー的な考えで、人の全ての行動や感情は意識の有無に関係なく目的を持って主体的に行われていると考える。
- 認知は、事実の受け止め方のこと。人は主観的に事実に意味づけをして捉えている。
- 信用と信頼
- 信用は過去のタスクに対する評価(条件付きで信じること)
- 信頼は未来のタスクに対する評価(無条件で信じること)
参考文献
- 岸見一郎, 古賀 史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』2013, ダイヤモンド社
- 嫌われたくないという制約を外して、嫌われてもいいから自分が心からやりたいことを一度考えてみるためのきっかけを与えてくれる本です。
- 岸見一郎, 古賀 史健『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』2016, ダイヤモンド社
- 嫌われる勇気に続くシリーズ完結編。アドラー心理学を教育や人生のタスクで実践するための方法が書かれていて、自分が何を考えているかで人生は変えることができると思わせてくれる本です。
- 会沢信彦『教師・保育者のためのカウンセリングの理論と方法』2021, 北樹出版
- カウンセリングの理論についての本ですが、第7章にアドラー心理学とその技法や、学校現場でどのように活かすことができるかなど、アドラー心理学の実践面の理解を補うための本です。