晴耕雨読

working in the fields on fine days and reading books on rainy days

非認知能力におけるGRID (グリッド)

GRID(グリッド)とは非認知能力の一つで「長期的な目標に対する忍耐と情熱」のことです。「やり抜く力」とも呼ばれます。

グリッドの2つの側面

  • グリッドには2つの側面がある
    • 興味の一貫性:興味が一貫しており、数ヶ月や数年にわたって自分にとっての重要目標から関心がブレない傾向のこと
    • 努力の粘り強さ:目標を追求する中で困難や挫折に直面しても、諦めず粘り強く努力し続ける傾向のこと
  • グリッドが高い人ほど、以下の特徴が見られる
    • 成果を上げやすい
    • 目標を諦めにくい
    • 不安や抑うつを感じにくい(神経症傾向が低い)
    • 人生の意義を見出しやすい
    • 楽観的で人生満足感が高い

高いグリッドがもたらす影響

  • 限界的練習(Deliberate Practice)
    • 何度もフィードバックを受けながらパフォーマンスの特定部分を改善できるようにする、骨の折れるが効果的な練習方法のこと
  • 自己調整学習(Self-regulated Leaning)
    • 自ら学習への動機づけ(やる気)を高めて、学びを進めていくこと
    • 自己調整学習では主体的な学習のサイクルが生まれる
      1. 学習計画段階
        1. 目標設定 (自己理想の設定)
        2. 学習計画 (適切な学習計画を立てる)
        3. 自己効力感 (その計画は自分にできるという自信)
        4. 動機づけ (やる気)
      2. 学習遂行段階
        1. 学習方略 (最もふさわしい学習方法の選択)
          • 認知的方略:記憶の工夫。自分自身の記憶や思考などの認知的プロセスを調整することで効率的な学習を促す
          • メタ認知的方略:学習の振り返り。自分自身の認知活動を客観的に捉えて評価し、制御する
          • 動機づけ方略:やる気を高める工夫。学習時間を区切って集中力を高める、得意や簡単なところから勉強する、興味のあることと関連づける、将来のことを想像するなど
        2. 時間管理 (必要なだけの時間の割り当て)
        3. 学習サポートの要請 (友達や教師への質問)
        4. 自己モニタリング (学習が順調に進んでいるかを自分で監視する)
      3. 学習評価段階
        1. 自己評価 (学習の成果を自分で評価)
        2. 原因帰属 (その結果になった原因を考える)
        3. 満足感と反省 (上手くいった場合は満足感を得る。努力不足で失敗した場合は反省する)
        4. 結果の受け入れ
    • 自己効力感(self-efficacy)は自己調整学習における目標設定で重要になる
    • 自己効力感を高めるための方法
      1. 達成経験:何かを達成したり成功したりする。最も重要な要素
      2. 代理経験:他人の達成する様子を観察する。
      3. 言語的説得:言語的な励まし。他人から説得されたり、自己暗示をかけたりする
      4. 生理的情緒的高揚:酒などによる生理的な気分の高揚(何でもできるかのように感じてしまう状態)
  • 成長マインドセット
    • 自分の能力は生まれつきのものではなく努力や工夫で開発できるという考え方
    • 困難や失敗も「学びや改善につながるもの」と認識するため、粘り強く取り組みやすい

グリッドを伸ばす方法

  1. 結果に基づくアプローチ
    • 価値期待によって動機づけられる(期待価値理論)
    • 目標達成によって得られる結果が自分にとって「価値」があると思うほど、目標達成への動機づけが高まる
    • 目標を達成できる見込みが高いと「期待」できるほど、目標達成への動機づけが高まる
    • グリッドを育む場合は、価値または期待のいずれかを高めることを目標とする
    • 期待への介入例:
      • 成長マインドセット教育(脳には可変性があり、努力や工夫で自分の能力を伸ばせると伝え、ワークを行う)
      • 再帰属訓練(学習性無力感に陥った子供に難しい問題を含む課題を解かせ、結果を返す際に「成果を左右するのは努力」と伝える)
    • 価値への介入例:
      • 生徒が今学んでいる内容が自分の将来と繋がっていることを教える
  2. 自分らしさに基づくアプローチ
    • 達成が困難であっても、本人にとって核となる人生の役割や価値と一致し、それを行うことが自分らしいと感じると粘り強さを発揮する
    • 介入例:
      • アイデンティティを意識させることで、アイデンティティに合うように振る舞うようになる
      • 頑張り屋という自分の一側面を強く意識させ、頑張るのが自分らしいという気持ちを育む
    • そもそも「自分らしさ」や「自分にとっての大切な目標」を持たないと意味がない。自分が何者かを知ることが大切
  3. 目標構造に焦点を当てたアプローチ
    • 集団において成果と学びがどれほど重視されているかを目標構造という
    • 成果(遂行)を重視すると、生徒はすぐに成功しなければいけないという不安が強くなり、失敗や困難に直面すると嫌な気持ちになる
      • 失敗の原因を無能であることと判断し、諦めやすくなる
    • 学び(習得)を重視すると、生徒は困難や失敗を「成長や気づきのチャンス」と前向きに捉え、粘り強くなる
      • 失敗の原因は努力不足と判断し、練習の価値を高く認識するようになる

グリッド尺度の計測方法

  • 「興味の一貫性」項目の質問事項(得点が高いほどグリットが低い)
    1. 新しいアイデアや計画によって、それまで取り組んでいたことから注意が逸れることがある
    2. 私の興味は毎年のように変わる
    3. あるアイデアや計画に一時的に夢中になっても、後で興味を失うことがある
    4. 目標を決めても、後から変えてしまうことがよくある
    5. 数ヶ月以上かかるような計画に集中して取り組み続けることは難しい
    6. 数ヶ月ごとに新しい活動への興味が湧いてくる
  • 「努力の粘り強さ」項目の質問事項(得点が高いほどグリットが高い)
    1. 重要な試練に打ち勝つため、困難を乗り越えてきた
    2. 困難があっても、私はやる気を失わない
    3. 私は頑張り屋だ
    4. 始めたことは、どんなことでも最後までやり遂げる
    5. 数年にわたる努力を要する目標を達成したことがある
    6. 私は精魂傾けて物事に取り組む

補足:尺度とは、数値と意味との対応関係のこと。心理学においては質問文と回答の選択肢のセットを複数用意し、何らかの心理的概念を測定する用具のことを心理測定尺度または単に尺度という。


参考文献