晴耕雨読

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行動経済学におけるナッジ

行動経済学におけるナッジとは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのことです。人の行動を強制するのではなく「人が意思決定する際の環境をデザインすることで、自発的な行動変容を促す」のが特徴です。

人に行動させるときの考え方

人に何かをさせるとき、以下の考え方があります。

  1. 放置(みんなの知識や善意に任せる)→自由主義(リバタリアニズム)
    • 自分で意思決定でき、実行できる、と考えている
  2. 規制(あれもこれも禁止する)→家長主義(パターナリズム)
    • 人間には意思決定する能力がない、と考えている

近年の行動経済学では、両者の折衷案的な「リバタリアン・パターナリズム(緩やかな介入主義)」が推奨されています。

  • 例:選択肢を与える。意思決定できない時だけ介入する。より良い方向への誘導
  • Nudge (ナッジ) とは、気づきを与えるための望ましい方向への軽いひと突きの誘導のこと

Nudge (ナッジ)

意思決定の癖を用いることで、より効果的なナッジになります。以下は意思決定の癖の主な例です:

  1. デフォルト
    • 何も選択肢ないときの初期値を工夫するナッジ。私たちの「現状維持を好んでしまう性質」を利用
    • 例:臓器提供シートの設問で「臓器を提供したくない場合はチェックを入れてください」と記載
    • 例:オプト・アウト(承諾がデフォルト)、オプト・イン(拒否がデフォルト)
  2. 損失回避
    • 私たちの「損失のインパクトを大きく感じる」という性質を利用
    • 例:入力したパスワードをハッカーがクラックするまでにかかる時間を表示
  3. 社会比較
    • 他の人がどのように行動しているかの情報を提供するナッジ。私たちの「他人に影響されるという特徴」を利用
    • 例:入力したパスワードが他の人のXX%よりも弱いパスワードであることを表示する

ナッジは意思決定をするその瞬間には効きますが、長期的な効果はありません。持続させるためには教育が必要です(利用することのメリットを理解させるなど)。

  • 例:マイナンバーカードを普及させるために、マイナンバーカードを使うことでスラッジが減る(行政手続きの手間が減る)、ということをリテラシーとして教育する

Sludge (スラッジ)

Sludge (スラッジ) とは、人の選択や行動が阻害される仕組みのことです。

  • 例:援助金を申請するために、煩雑な書類や膨大な待ち時間を要する
    • 社会的弱者ほどスラッジだらけの煩雑な手続きが困難になっている
  • (悪性)ダークパターン
    • 行動を容易にする有害なナッジのことを「ダークパターン」という
    • 例:ユーザが意図しない意思決定をするように強制・誘導するようにUIを設計する
    • 例:サブスクの登録は容易(自動加入)だが、解約方法を不明瞭にする
    • ダークパターンにはハマらないようにする。ハマっている人がいれば助けてあげる必要がある
    • ダークパターンの手法と事例を学ぶサイト – darkpatterns.jp
  • (良性)熟慮を促すナッジ
    • 確認画面を表示すると手順が煩雑になるが、効果的なときもある
    • 例:拳銃購入前に待機時間を設ける(アメリカの法律)
    • 例:中絶をするまでに時間を設けてカウンセリングを必須とする
  • ナッジをするよりもスラッジを減らす方が効果的なときもある
    • 「面倒だからやらない」が、良い行動を阻害している可能性あり
    • 気づかれないナッジは良くない(効果的ではない)。誘導されたことを認識した上で同意する(気づくナッジ)の方が効果的

参考資料

  • https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/28/4/28_596/_pdf