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アルコールと血管疾患についての研究

適量飲酒であっても脳卒中のリスクは高まることを示す研究の日本語まとめです。 元の論文は 「Conventional and genetic evidence on alcohol and vascular disease aetiology: a prospective study of 500 000 men and women in China - The Lancet」(2019) です。

TL;DR

  • アルコール摂取量が多いほど高血圧脳卒中のリスクが増加する。
  • アルコール摂取量と心筋梗塞のリスクの関係はこの研究だけでは示せない。

背景

禁酒や大量飲酒と比較して、適度なアルコール摂取は多くの研究で心血管疾患リスクの低下と関連している。 東アジアでの研究は、2つの一般的な遺伝的変異が飲酒パターンに大きな影響を与えるため、これらの因果関係を判断するのに役立つ。 これら2種類を用いて、男性の心血管疾患リスクと遺伝子型で予測された平均アルコール摂取量を評価し、男性の結果と女性(ほとんど飲まない人)の結果を比較した。

手法

China Kadoorie Biobank に登録された 512,715 人の成人について、アルコール摂取量とその人の特徴を記録した。 約10年間(2017年1月1日まで)追跡調査し、罹患率および死亡率と電子カルテの記録との連携によって、心血管疾患(虚血性心疾患)、脳内出血、心筋梗塞)について観察した。 161,498 人の参加者について、アルコール代謝を変化させる2種類の遺伝子型 ALDH2-rs671 と ADH1B-rs1229984 を特定した。 調整されたCox回帰分析を用いて、疾患発生率を自己申告の飲酒パターン(従来疫学)または遺伝子型で予測された平均アルコール摂取(遺伝疫学、つまりメンデルの無作為化)に関連づける相対リスクを取得し、研究領域ごとの階層化により、疾患率と遺伝子型で予測された摂取量の領域間の変動を確かめた。

結果

男性の33%(69,897人)がほぼ毎週飲酒しているのに対し、女性はわずか2%(6,245人)であった。 男性では従来疫学により、アルコール摂取は虚血性心疾患の発生率(n=14,930)、脳内出血(n=3,496)、急性心筋梗塞(n=2,958)の発生とU字型の関係性を示した。 毎週約100gのアルコール(1日に1〜2杯)を飲む男性は、3種類全ての病気のリスクが、禁酒した人や大量に飲酒する人と比較して低かった。 対照的に、遺伝子型で予測した男性の平均アルコール摂取量は大きく異なるが(1週間あたり4〜256g、つまり1日あたり0〜4杯)、U字型のリスクとの関連はなかった。 脳卒中の場合、遺伝子型で予測した平均アルコール摂取量は、リスクと正の相関関係を示し、虚血性心疾患(280g/1.58週の相対リスクRR、95%信頼区間[0.78, 1.18]; p=0.69)よりも脳内出血(280g/1.27週 1 のRR、95%信頼区間[1.13, 1.43]; p = 0.0001)の方がより強い相関を示した。 しかし、心筋梗塞の場合、遺伝子型で予測した平均アルコール摂取量とリスクとの有意な関係はなかった(280g/0.96週のRR、95%信頼区間[0.78, 1.18]; p = 0.69)。 飲酒者と遺伝子型で予測されたアルコール摂取量によって判断された飲酒者は、収縮期血圧(最高血圧)で同様に強い正の相関があった(それぞれ p < 0.0001)。 女性では飲酒はほとんどなく、研究した遺伝子型は平均アルコール摂取量を高く予測せず、血圧・脳卒中・心筋梗塞と正の相関はなかった。

考察

遺伝疫学では、適量飲酒による脳卒中の予防効果の大部分が非因果的であることを示した。 アルコール摂取量が増えるほど高血圧と脳卒中のリスクを一様に増加させるが、この研究だけではアルコール摂取量は心筋梗塞のリスクに大きな影響を及ぼすことは示せなかった。


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  1. ビールのアルコール度数を5%とし、缶ビールの大きさを350mlとすると、アルコール280g / 1.27週は1週間の飲酒量で缶ビール約12.5本に相当する。