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適量飲酒による認知機能低下の長期的な集団研究

適量飲酒でも認知機能低下があることを示す研究の日本語まとめです。 元の論文は Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study (2017) です。

TL;DR

  • 禁酒者と比較すると、飲酒は脳機能や言語機能の低下と関連している。
  • 飲酒によって脳の海馬が萎縮する。
  • 少量の飲酒でも、海馬萎縮の予防効果はない。

目標

適量飲酒と脳の構造や機能との関連性について調べる。

実験手法

毎週のアルコール摂取量と認知能力を30年間(1985〜2015年)にわたって測定するコホート研究を行った。 研究の終盤(2012〜2015年)にはマルチモードの頭部MRI検査を行った。

対象者

イギリスに住む Whitehall II に登録したコミュニティ(Whitehall II imaging 研究の一部)。

参加者

参加者は男女550人、平均年齢43.0歳(標準偏差5.4)で、CAGEでアルコール依存症ではないと判断された人で、追跡調査で頭部MRIを受けても問題ない人。 参加者の内 23 人は、不完全や低品質のMRI画像データ、くも膜のう胞などの構造的異常、摂取量・健康状態・認知機能などのデータが不完全であることなどから、統計から除外された。

主な評価項目

脳の構造的測定では、海馬萎縮、灰白質密度、白質の微細構造を測定した。 脳の機能的測定では、認知機能の低下と、脳スキャン時の横断的な認知機能を測定した。

結果

30年間の追跡調査の期間中において、アルコール摂取量が多いほど海馬萎縮の可能性が高まることがわかった。 1週間に30ユニット1(アルコール300ml。缶ビール約17本2)以上を摂取する人は、禁酒の人と比較して最も海馬萎縮のリスクが高くなった(オッズ比は5.8、95%信頼区間 [1.8, 18.6]; P ≤ 0.001)。 1週間に14〜21ユニット(アルコール140〜210ml。缶ビール約8〜12本)を摂取する人では、脳の右側で海馬萎縮する可能性が禁酒する人に対して3倍以上あった(オッズ比は3.4、95%信頼区間 [1.4, 8.1]; P=0.007)。 1週間に1〜7ユニット (アルコール10〜70ml。缶ビール約0.5本〜4本) の軽い飲酒をする人では、アルコールによる海馬萎縮の予防効果はなく、アルコール摂取量が増えるほど脳梁(のうりょう)の微細構造が変化し、語彙的な流暢さが急速に低下することがわかった。 、横断的な認知機能・意味に関する流暢さ・単語の記憶力は、アルコール飲酒量と関係性がないことがわかった。

結論

アルコール摂取量について、中程度のレベル(1週間に缶ビール約8〜12本)では、海馬萎縮などの脳にとって有害な結果をもたらす。 この結果は、イギリスの最近のアルコールガイドラインに根拠を与え、アメリカで推奨されている現在の摂取制限に異議を唱える。


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  1. アルコールユニットについての説明:What is an alcohol unit? | Drinkaware 

  2. 訳注:ビールのアルコール度数を5%とし、缶ビールの大きさを350mlとする