2024年に対する個人的な駄文です。
仕事面
技術の取り組み
今年の仕事で一番思い出深いのは、3日かかる移行処理を3時間に短縮したことでしょうか。 色々な試行錯誤がありましたが、標準技術の仕様(英語)を読み込み、バイナリで処理を行い、メモリの負担を極力少なくし、複数処理を並列で動かせることを実現させた過去一の努力の結晶です。 自分の実装を元に、類似の処理や、他の実装にも移植されたりするなど、いろんなところで自分の実装の片割れが動いているので、静かに淡々と動く自分の子供たち(プログラム)を思うと心が躍ります。 たまたま自分の近くに解決できそうな大きな問題が転がってきたという運も大きいですが、個人業績評価がA(期待以上・事業への影響大)だったのはこの取り組みのおかげです。 社内表彰に取り立ててくださったライン職の皆さんにも感謝しています。
また、今年の自分の技術について、自分の中の技術トレンドは、セキュリティからクラウドやコンテナ技術や開発におけるモダンなフレームワークなどに移りつつあります。 仕事の内容がそちらに偏りつつあるためです。 とはいえセキュリティに飽きたかと言われると全くそんなことはないです。 最終的には自分に与えられている権限と裁量の範囲で自由に動き回れて、その中の一つにセキュリティ(特に自分の得意な暗号技術やプロトコル周り)があればいいなというスタンスでやっていきたいです。
メンターの取り組み
今年は同じグループに中途社員が入ってきたので、メンターとして色々サポートするのを半年ほどしておりました。 自分は過去に社外活動で技術系の講師やメンターとして活動していたこともあり、そのときの経験も活かしつつ、適用場所を教育から職場に移したらどうなるだろうの実験の日々でした。 メンティーに限らず我々がスキルを獲得するまで流れについて現時点での自分なりの考えをまとめると、 自分はセキュリティ畑にいた人で OODAループ(観察-状況判断-意思決定-行動)の意思決定プロセスの考え方が好きなので、OODAループを戦場から職場における自己調整学習に当てはめてみたらどうなるだろうか、という視点でざっくりまとめていきます:
- OODAループの最初のOは観察 (Observation) です。職場における観察とは、上司や周りの先輩などの行動や取り組み方などを観察することです。 そして、メンティーが周りからスキルを盗むことができるかどうかは、脳科学やNLPにおけるRAS (網様体賦活系; Reticular Activating System) が関係します。 RASは、目に入ったもの全てではなく必要なものだけを認識していく脳の仕組みです。 つまり、メンティーを伸ばすためには、まずメンティー自身に仕事に対する当事者意識を持たせる必要があります。 責任が伴うと周りへの見方が変わるので、より目標を達成するための最短効率な観察学習方法を自分自身で見つけるようになります。 とはいえ、いきなり責任を与えるのは良くないので、仕事に対する自己効力感が高くなったあたりが当事者意識や責任を持たせる良い頃合いだと思います。
- OODAループの2文字目のOは状況判断(Orient)です。日本語訳だと「方向づける」という意味ですが、別の言葉で置き換えるなら「分析」とかでしょうか。 得られた情報から過去の経験などと照らし合わせて、仮説を立てたり、推測したりするプロセスのことで、これを「インテリジェンス」といいます。 分析するときは過去の経験の積み重ねが重要なので、職場においては先輩が後輩の仕事を巻き取りすぎないように心がける必要があります。 また、結果よりも努力の過程を褒めるのがアドラー心理学における基本ですが、同様に職場においても、出力管理(出てきたアウトプットに対してフィードバックすること)よりも入力管理(仕事のやり方に対してフィードバックすること)の指導に注力した方が、最終的な仕事としての品質を保つことができるし、本人の仕事に対する道筋が見える感覚(自己効力感)を高めることにもつながります。
- OODAループの3文字目のDは意思決定 (Decide) です。職場における意思決定では、業務を前に進めるためにリスクを取ってでも決定すべきことがあります。 この意思決定は、モチベーションや自己効力感があると、リスクを取ってチャレンジできるようになります。モチベーションについては別記事の動機づけ・モチベーションで詳細を書いているのでそちらをご覧ください。
- OODAループの最後のAは行動 (Act) です。 最初の内は慣れない仕事は嫌なので(認知的に不快なので)、強い意志の力(アドレナリン)で取り組み、その報酬(ドーパミン)を得ることで仕事をこなしていきますが、このやり方は継続できないです。 結果が出ていて良いポジションにいても会社を去る人のパターンです。 理想的には、仕事を取り組む行為自体が報酬(ドーパミン)で、その結果さらに報酬(ドーパミン)が得られる好循環のサイクルに持っていく必要があります。 この好循環サイクルの状態が、いわゆる社員エンゲージメントが高い状態です。この状態は、ポジティブ心理学におけるフロー状態と同じです。 そして、その前提には、ミスが許容される環境(擬似本番環境)を用意して、もし失敗してもメンティーにポジティブな意味で恥をかける環境を作ったり、仕事の成果が大きな良い影響を与えていることを経験させたり、ジョブクラフティングできるような自由裁量的な課題を用意したりする必要があります。 そうして、社員の能力開発に力を注げるような環境をチームや組織から提供でき、社員自身も能力開発に責任を持つことが、職場へのエンゲージメントを高めることにつながります。
人に教える技術は難しいと思いつつも、学習科学(認知心理学や脳科学、行動科学などを基礎として効率的な学習のあり方を研究する学問)の分野は面白いので、いつか自分の中でパターン化できたら良いなと思っています。
プライベート面
プライベート面では、2023年から継続して作成していた動画コンテンツを2024年1月Udemyで「暗号技術とセキュリティ ―暗号技術の機密性、認証、鍵管理から学ぶセキュリティ入門―」として公開しました。 自分はもともと会社の制度を使ってUdemyの動画見るような利用者の立場だったのですが、製作者としてUdemyにコンテンツを審査されるのは良い経験でした。両側の視点からの知見を得ることができたのでよかったです。 収益率の観点だと、自分がダイレクトマーケティングしない限りは、Udemyに手数料を70%近く取られてしまうので、継続してコンテンツを出し続けるのはイマイチかな…という感じがしています(技術書典の方が市場規模小さいけど手数料少なくて優しい)。 動画コンテンツの価格は、色々悩んだ結果、収益性度外視でUdemyで設定できる最低価格にしました。 季節の節目ごとにUdemyが勝手にタイムセールを始めるので、そのときだとさらにお安く入手できます。 その代償というか、しわ寄せとして、製作者に振り込まれる金額が減りますが、それでも誰かの学びの第一歩になれば幸いです。 頂いたお金は、全て技術に還元するつもりで、O'Reillyや技術書典の電子書籍版の技術書の購入に使わせていただいております。
おわりに
最後になりますが、今の私がこうして技術のことをできるのは、周りの人の支えによるところです。 仕事とプライベートのどちらの面においても、私の話を聞いてくれた人、お話してくれた人、相談に乗ってくれた人に感謝しております。 来年も引き続き、心と身体に気を付けながら努力を積み重ねていきたいと思います。